南京錠の「南京」とは?

けん玉のルーツを探る前に難解な質問をされました。
日本史の授業中、南京大虐殺について説明しているとき、ある生徒が「南京錠はなぜ南京がつくんですか?」という授業には全く関係ない質問をしてきた。その時、少し考えてみたが「わからない、調べてみるよ」なんて迂闊なことを言ってしまったがために、調べなければならない状況に陥ってしまいました。
とりあえず、最近お決まりの『広辞苑』(第五版)で「南京錠」を調べてみました。

巾着形の錠前。巾着錠。西洋錠。

どうやら「南京」で作られたというわけではなさそうです。
「西洋錠」なのに「南京」?
試しに「南京」が頭につく物品を、同じく『広辞苑』から拾っていくと、以下のようになります。

①南京操り…「糸操り」の異称。
※「糸操り」…あやつり人形の一。人形の各部に糸を結び、人形よりも上部に操り手がいて操るもの。寛文(1661〜1673)年間に始まるといい、江戸時代を通じて行われた。南京操り。
南京軍鶏(シャモ)…シャモの極めて小形の一変種。愛玩用。
③南京繻子(ジュス)…経(タテ)に絹糸、緯(ヨコ)に綿糸を用いた繻子。中国から輸入。明治のころから京都・名古屋・桐生でも製織し、経糸に極細の諸撚糸(モロヨリイト)を使用して品質を改めた。
④南京銭…ア)明代に南京付近で鋳造した私鋳銭で日本に輸入され、流通した銭貨。悪質の銭。
→京銭(キンセン)。イ)江戸末期、中国から横浜に輸入された中国製の粗悪な天保当百銭。
⑤南京玉…陶製・ガラス製のごく小さな孔のあいた飾り玉。
⑥南京鼠…ハツカネズミの飼養変種。かつて中国からもたらされたという。
⑦南京黄櫨(ハゼ)…トウダイグサ科の落葉高木。中国原産で庭木・街路樹とする。高さ約6メ-トル。葉は三角状広卵形で先端がとがり、秋、紅葉する。春・夏の候、総状花序に雄花を、その脚部に雌花をつけ、秋に球形の螬果(サクカ)を結ぶ。根皮を乾かして利尿剤・瀉下剤とする。種子から得た脂肪を烏臼(ウキュウ)油といい、石鹸・蝋燭の原料とし、腫物・皮膚病に外用する。
⑧南京鳩…ハトの一種。シラコバトに似た毛色で、さらに小形のもの。
⑨南京袋…麻糸を粗く織った大形の袋。穀類を入れるのに用いる。
⑩南京米…インド・タイ・インドシナ・中国などから輸入していた白米の俗称。
⑪南京豆…落花生の別称。
※落花生…マメ科の一年生作物。ボリビアなどアンデス地域の原産。世界中に広く栽培され、豆類では大豆に次ぐ。インド・中国に多く産する。18世紀初め中国から渡来。匍匐性と立性とがある。開花・受精後、子房の柄が長く下に延び、地下に入って繭の形の莢果(キヨウカ)を結ぶ。種子は脂肪に富んで、食用にし、また、油を採る。らっかしょう。南京豆。唐人豆。異人豆。関東豆。ピーナッツ。
南京虫…ア)トコジラミの別称。イ)俗に、小形の女性用金側腕時計。
⑬南京木綿…帯黄褐色の太綿糸製の地厚平織綿布。南京地方から産出。
⑭南京焼…江戸時代、中国から渡来した磁器の総称。

以上の用例を見ていくと、③「中国からの輸入」、④「明代に南京付近で鋳造した私鋳銭で日本に輸入」、⑥「かつて中国からもたらされた」、⑩「インド・タイ・インドシナ・中国などから輸入していた」、⑪「18世紀初め中国から渡来」⑭「中国から渡来した」などの説明から、「南京」や中国だけではなく、インドなど外国から日本にもたらされたものに関して「南京」という言葉をつけていることがうかがえます。
さて、南京という名称の都市はいつうまれたのか?『角川世界史辞典』(角川書店、2001年)で調べてみました。以下の通り。

中国江蘇省省都。長江沿岸に位置し、3世紀に呉が都を置き、歴代南朝政権の国都になり、建業、建康、金陵等と称された。明朝の創建時、首都応天府に改称、1421年、北京への首都移転で陪都南京となった。(以下省略)

1421年に「南京」が成立したということは、「南京錠」と呼ばれるようになったのはそれ以降ということになります。
ここまでのことで推測できることは、1421年以降、ヨーロッパなどから渡ってきた錠前に対して「南京錠」という名称がつけられたことになります。
ということは、「南京」という用語は私が研究している「唐物」の「唐」と同様の意味合いを持っていることになります。
「唐物」という用語は、研究史上、時代を問わず、外国から入ってきたほとんどのモノについて使われます。
「南京」「唐」ともに、「中国」及びその背後に広がる「地域」を表す用語として使われる意味をもう少し考える必要がありそうです。
ウサミ君、こんな感じでわかりますか?